交配に関しての基礎知識 ― 異型花柱性 #
異型花柱性とは #
異柱性という表記もありますが、正確には 異型花柱性(Heterostyly) と呼ばれるらしいです。植物が自家受粉を回避し、別個体の花粉で受粉するための仕組みの1つで、花柱――雌しべの長さが異なるタイプの花が同種内に存在し、同じタイプの花の花粉では種が出来ない。そういう点では自家不和合性のより強くなったものと見ても良いのかもしれません
オキザリスの異型花柱性は『三型』ある #
ここがなかなかに面白く、厄介そうなところです。異型花柱性の代表例とされるサクラソウ属は『雌しべが長い』『雌しべが短い』の2タイプで、それぞれを長花柱花・短花柱花と呼ぶらしいのですが
オキザリスの場合は中花柱花と呼ばれる、また違うタイプの花が存在しています。中の文字に相応しく、長いわけでもなく短いわけでもない……まさに中間的な位置への配置
三型のそれぞれ #
前提としてサクラソウ属のような長短の花では2か所、オキザリスのような長中短の花では3か所、雄しべor雌しべが配置され得る場所が存在することになります。自分がオキザリスを観察した範囲では雌しべが短い花に短い雄しべはなく(中間の長さ+長いもの)、これは中花柱花・長花柱花でも共通で必ず3つの場所にはいずれかの蕊が配置されるようになっていました。短花柱にそれと同等の長さの雄しべ+別の長さの雄しべのようなものは基本的にはないと考えて良いのではないかと思われます
長花柱・短花柱の2タイプであれば
異なるタイプの花粉=雌しべと対応した位置の雄しべの花粉
となるのですが、三型ある場合には当然それ以外の組み合わせも可能になります。これらの組み合わせを考える際にそれぞれの位置に属するものをどう呼ぶべきかという問題があり……たとえば農水省の品種登録においては、既知の品種と登録品種を見分ける点として雌しべの長さの記述が多く見られるのですが
- 2つある雄しべを上段・下段とする
- これらの雄しべとの相対的な位置で雌しべの位置を表記
という形態になっており、この様式では下段の雄しべと書いてもその位置は一意に定まらなくなります(短花柱花 / 中・長花柱花で分かれる)。このことも踏まえて、多少フォーマットは被ってしまうのですがこのサイトでは一番飛び出た位置にあるものから順に
- 上段
- 中段
- 下段
という表記にしていこうと思います
交配可能な組み合わせについて #
これは種間のようなものではなくて、あくまで異型花柱性に則った話です。過去に自分が読んだ文献……何だったのか思い出せないのですが、そちらでは異型花柱性という用語こそ出なかったものの、この性質に触れた上で「同じ位置の花粉」を付けることが交配する際に重要である旨が書かれていました
このことと、先の段落で定義した様式を踏まえると
- 長花柱花(雌しべが上段にある)には中・短花柱花の上段の雄しべ
- 中花柱花(雌しべが中段にある)には長・短花柱花の中段の雄しべ
- 短花柱花(雌しべが下段にある)には長・中花柱花の下段の雄しべ
という対応を考えて行く必要が出てきます。実際に対応しない位置の雄しべの花粉では不可能なのかについても検証はしていきたいですが、まずこの組み合わせでやった上で正常な種子の獲得ができたか?の段階でまだまだ悪戦苦闘している段階なので……この辺は聞きかじった知識でしかないということも添えておきたいです
短花柱花の問題点 #
まだまだ成功例に乏しいですが、実際にこの辺を意識して交配した感想として
短花柱花を子房親にする交配は物理的に難しい
点は大きいと感じました。そのままの状態では花の底に近い位置にあるためアクセスしづらく、花弁の除去をする際も完全に根本から花弁を除いてしまうと萼片がすぼまって邪魔をしてしまう……とにかく位置的にやりづらいですね。今後オキザリスの交配に挑戦してみよう!と思われる方がいるなら、ひとつ親の選定として意識しておいて損はないと思います